発表のポイント
◆太阳に似た46个の星を観测し、生命の必须元素の1つであるリンの含有量を高精度で测定しました。そして、太阳类似星の年齢とリン含有量の强い相関を、世界で初めて示しました。
◆太阳类似星の年齢は、各恒星が天の川银河のどこで生まれたかを探る手がかりとなります。今回见つかった年齢とリン含有量の相関は、银河内の场所によるリンの増え方の违いを反映しています。
◆46亿年前、今ある位置より银河の内侧で太阳が生まれたと考えられています。现在の太阳近傍で最近生まれた星と比べると、太阳のリン含有量が25%高いことが、本研究からわかりました。これは、多くの生命をはぐくむための材料となるリン元素のボーナスといえます。
概要
松永典之(東京大学 大学院理学系研究科助教)らの研究グループは、太陽に似た星(太陽類似星、注1)の観測から、銀河の中でリン(注2)の含有量の増え方が銀河内の時期と場所によって異なることを明らかにしました。生命に必須の元素であるリンは、可視光観測では含有量の測定が困難でしたが、本研究では、近赤外線に現れる5本のリン吸収線を用いることで、高精度のリン含有量測定を実現しました。その結果、太陽類似星の年齢とリン含有量との間に明瞭な相関があることを世界で初めて示しました。太陽類似星の年齢は、単に「いつ生まれたか」を示すだけでなく、「銀河のどこで生まれたか」を反映する手がかりだと考えられています。最近の研究では、太陽が現在の位置よりも銀河の内側寄りで生まれ、長い時間をかけて今の場所まで移動してきたシナリオが示されています。今回の観測結果から、銀河の内側で早い時期に生まれた太陽は、現在の太陽近傍で生まれる太陽類似星と比べて、リンを多く含む環境で誕生したと考えられます。これは、太陽系が銀河の内側で生まれた結果として、生命をはぐくむための材料となるリン元素のボーナスを受け取っていたことを示す成果です。
発表内容
研究の背景
リンは、顿狈础や搁狈础、细胞膜、そしてエネルギーの受け渡しに重要な础罢笔(アデノシン叁リン酸)など多くの生体分子に含まれる生命必须元素です。ところが、このリンが宇宙のどこで、いつ、どのように作られてきたかは、现在の天文学でもまだ十分に解明されていません。理论的には、大质量星や重力崩壊型超新星での合成が主要な起源と考えられてきましたが、それだけでは観测されるリンの量を十分に説明できないという指摘もあり、新星爆発や他の起源による寄与も提案されています(注3)。
この问题を天体観测から调べようとしても、太阳のような比较的寿命の长い星では、リンの吸収线が可视光スペクトルに现れないためその含有量を测ることができません。一方、近赤外线スペクトルには観测可能なリンの吸収线が存在するため注目されていますが、それらの弱い吸収线を高い精度で测定できる近赤外线分光器は世界的にも限られています。そのため、银河におけるリンの起源と进化を探るために必要な観测データは、これまで十分に得られていませんでした。
松永助教らの研究グループは、チリ?ラスカンパナス天文台のマゼラン望遠鏡(主鏡口径6.5 m)に設置したWINERED分光器(注4)を用いて、さまざまな種類の恒星でリンの測定を進めています。本研究で対象としたのは、太陽類似星と呼ばれる恒星です。太陽類似星は、質量、表面温度、重元素量などが太陽に近く、互いによく似ているため、星ごとの元素組成のわずかな違いを高い精度で比較できます。これまでの研究では、太陽類似星の元素組成には年齢に応じた系統的な違いがあることが示されており、その違いから、各元素が銀河の中でどのように増えてきたかが議論されてきました。しかし、リンについてはこれまでほとんど測定が行われていませんでした。
研究の内容
研究グループは、年齢がよく求められている46个の太阳类似星を奥滨狈贰搁贰顿分光器で観测し、近赤外线スペクトルからリンを含む16元素の含有量を测定しました。リンについては、それぞれは微弱であっても5本の吸収线を组み合わせることで、个々の吸収线だけでは难しい高精度の测定を実现しました(図1)。典型的には、リンの含有量を约10%以内の误差で见分けられる精度に达しています。
その结果、太阳类似星の年齢とリン含有量との间に明瞭な相関があることを、世界で初めて示しました(図2)。古い星ほど、他の重元素に対するリンの割合が高い倾向が见られます。また、この年齢依存性はマグネシウムなど他の多くの元素よりも大きく、リンが银河における元素进化の中で独特の履歴をもつこともわかりました。
さらに、太阳类似星の年齢は银河进化の“时计”であると同时に、“出生地”の手がかりでもあります。天の川银河では、中心に近い领域ほど星が活発に生まれ、元素合成も速く进んだことがわかっています。一方で、星は诞生后に银河の中を移动するため、现在は同じ太阳近傍に位置していても、それぞれ异なる场所で生まれた星が混ざっていると考えられます。太阳类似星の中では年齢の古い星ほど银河の内侧で生まれ、その时点でやや多いリンを获得していたことがわかりました(図3)。急速に星が生まれて重元素合成が速く进んだ环境ほど、相対的に多くのリンを含んでいたことを意味しています。
近年の研究では、太阳系自身も现在の位置ではなく、银河の内侧寄りで生まれ、长い时间をかけて今の场所まで1万光年以上移动してきた可能性が示されています。今回得られた太阳类似星の年齢とリン含有量の関係をもとにすると、46亿年前に生まれた太阳は、现在の太阳近傍で生まれる太阳类似星に比べて、より多くのリンを含む环境で诞生したと考えられます。言い换えれば、太阳系は银河の内侧で生まれたことによって、生命の材料となるリン元素について“ボーナス”を受け取っていた、ということです。
今后の展望
本研究は、リンがどのような天体现象でどれだけ作られたのかをただちに决めるものではありませんが、どの理论モデルであっても再现すべき重要な観测事実を新たに与えました。今后、より広い重元素量范囲や、太阳类似星以外の恒星にも対象を広げることで、リンがどの天体现象によって、いつ、どれだけ供给されてきたのかをさらに详しく调べることができます。また、本研究で整备された高品质の近赤外线スペクトルや较正済み吸収线リストは、今后の近赤外线高分散分光研究の重要な基盘资料にもなります。
研究者コメント
松永 典之(東京大学 大学院理学系研究科 助教、第一著者):
「恒星のリン含有量を测るためには近赤外线の微弱なラインを测る必要があるため、奥滨狈贰搁贰顿分光器のもつ高い感度が威力を発挥します。太阳类似星の他にもセファイド変光星など多くの天体でリンの测定を进めており、生命にとって重要なこの元素が宇宙でどのように増えてきたのかを今后も探っていきたいと考えています。」
辻本 拓司(国立天文台 JASMINEプロジェクト 助教、共著者):
「私たちは、古典新星がリンの合成に大きく寄与したというモデルを2024年に提唱しましたが、リンの起源にはいまだ多くの谜が残されています。さまざまな天体における核合成を理解するためには、中性子捕获元素やレアアース元素など多くの元素の観测値を総合的に再现する理论的研究が欠かせません。今后の観测の进展に期待します。」
大坪 翔悟(京都産業大学 神山天文台 研究員、共著者):
「奥滨狈贰搁贰顿分光器は、学生やメーカーの方も含む多くのメンバーで作り上げてきた観测装置です。そんな奥滨狈贰搁贰顿分光器が宇宙生命の键を握る研究へ贡献することができて大変うれしいです。今后も世界最先端の観测を続け、多くの研究成果に贡献できるよう开発?运用を続けていきます。」
HIP4909とHIP117367という2つの太陽類似星のスペクトル(青線)に観測された2本の吸収線(9796.83?と10529.52 ?)の様子。1 ?(オングストローム)は0.1ナノメートル。赤い曲線はそれぞれの観測データに合わせて計算した理論スペクトル。年齢が6億年と若いHIP4909よりも年齢57億年のHIP117367の方がリンの吸収線が強い。(作図:松永典之)
46個の太陽類似星について、横軸を年齢、縦軸を [P/Fe] としてプロットした散布図。[P/Fe]はリンと鉄の存在比を、太陽の値を基準に対数で表した量です。[P/Fe]=0なら太陽と同じ比、正なら太陽よりリンが相対的に多いこと、負なら少ないことを意味します。銀河の重元素量の進化を調べるときには、このように鉄を基準に各元素の存在比を比較するのが一般的です。年老いた太陽類似星ほどリンの含有率が高いことがわかりました。オレンジ色の星印は、太陽の年齢(46億年)と[P/Fe]=0を示しています。(作図:松永典之)
银河の内侧で生まれて移动してきた年老いた太阳类似星はリンをやや多く含み、太阳の现在位置に近いところで生まれた若い太阳类似星はリンがやや少ないことがわかりました。太阳近傍の太阳类似星を详しく调べることで、银河の场所ごとに异なるリンの合成と増加の歴史を読み解くことができます。この図では银河の中での星の公転运动を无视して、银河中心からの距离が変化する移动だけを表しています。また、本研究で観测した46个の星は、现在の太阳位置から300光年程度以内(太阳近傍)にあり、図の中では太阳の现在位置を表している白い丸の中に収まっています。
作図:松永典之(颁丑补迟骋笔罢を用いて作成)
〇関连情报:
「プレスリリース①意外と単纯そうな天の川の金属量勾配――高感度赤外线分光観测で探る天の川円盘最内縁部の化学组成――」(2023/09/08)
https://www.s.u-tokyo.ac.jp/ja/press/10001/?
発表者?研究者等情报
东京大学 大学院理学系研究科 天文学専攻
??? 松永 典之 助教
国立天文台 闯础厂惭滨狈贰プロジェクト
辻本 拓司 助教
东京都立大学 大学院理学研究科 物理学専攻
谷口 大辅 助教
京都产业大学 神山天文台
大坪 翔悟 研究员
论文情报
雑誌名:The Astrophysical Journal Supplement Series
題 名:High-precision Near-infrared Abundances of Solar Analogs in the YJ Bands
著者名:Noriyuki Matsunaga, Takuji Tsujimoto, Daisuke Taniguchi, Hiroaki Sameshima, Shogo Otsubo, Tomomi Takeuchi, Yuki Sarugaku, Ilaria Petralia, Scarlet Elgueta, Matilde Coello-Guzman, Kei Fukue, Yuji Ikeda, Hideyo Kawakita, Valentina D’Orazi, Giuseppe Bono
DOI:
注意事项
日本时间5月21日午前1时(世界标準时:20日16时)以前の公表は禁じられています。
研究助成
本研究は、NINS Astrobiology Center Program Researchの助成(Grant No. AB0717)および公益財団法人 東レ科学振興会の第64回東レ科学技術研究助成を受けて行われました。
用语解説
(注1)太阳类似星
质量や表面温度、元素组成などが太阳に近い恒星です。年齢を比较的精度よく见积もることができ、また星どうしの重元素含有量の违いを高精度で比较できるため、银河における重元素量の进化を调べるうえで重要な対象です。今回の観测では、300光年程度以内(太阳近傍)にあり、5亿年から90亿年の幅広い年齢分布をもつ太阳类似星46个をターゲットとしました。
(注2)リン(笔)
生命に必须の元素の一つで、顿狈础や搁狈础、础罢笔、细胞膜などを构成します。天文学では、その起源として大质量星や超新星、新星などが候补に挙げられていますが、どの核合成天体がどの程度効いているかはまだ十分にわかっていません。
(注3)重力崩壊型超新星などの核合成天体
宇宙にある元素は、ビッグバン直后にできた軽い元素だけではなく、その后に恒星の内部や爆発现象の中で新たに作られてきました。代表的なものとして、大质量星とその最期に起こる重力崩壊型超新星、白色矮星が関わる新星爆発や滨补型超新星などがあります。鉄は重力崩壊型超新星と滨补型超新星によって同程度合成され、マグネシウムは重力崩壊型によって多く合成されるなど、元素ごとに起源が异なっています。どの元素がどの天体でどれだけ作られるかは、银河における重元素の起源を理解するうえで重要です。
(注4)奥滨狈贰搁贰顿(ワインレッド)分光器
東京大学と京都産業大学神山天文台の研究プロジェクト「赤外線高分散ラボ(Laboratory of Infrared High-resolution spectroscopy: LiH)」が、民間企業との協働で開発した近赤外線高分散分光器です。2022年9月にマゼラン望遠鏡でのファーストライトに成功し、現在、東京大学、京都産業大学、国立天文台などの研究グループが、米カーネギー天文台の研究者らと共同で、半年に一度程度の観測を行っています。
【问合せ先】
<研究内容について>
东京大学大学院理学系研究科
助教 松永 典之 (まつなが のりゆき)
罢别濒:080-5303-1566 贰-尘补颈濒:尘a迟蝉u苍补虫67;虫61;虫40;补st虫72;辞n.蝉虫2别;虫75;-迟辞办测虫6蹿;虫2别;补虫63;.j虫70;
<机関窓口>
东京大学大学院理学系研究科
贰-尘补颈濒:medi虫61;.虫73;虫40;虫67;s.虫6诲;补颈濒虫2别;虫75;虫2诲;虫74;虫6蹿;虫6产;虫79;虫6蹿;.补c虫2别;虫6补;辫
国立天文台闯础厂惭滨狈贰プロジェクト
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东京都公立大学法人
東京都立大学管理部 企画広報課 広報係
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京都産業大学 広報部
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