【発表のポイント】
- 磁性体では、スピンと呼ばれる电子の自由度が规则性を持って并びます。このスピンが同一平面上で并ばず、叁次元的に配向する非共面スピン构造(注1)に由来する物性は、次世代のスピントロニクス(注2)素子への応用が期待されていますが、その微视的、定量的な计算は非常に难しいことが知られています。
- 第一原理计算(注3)に基づく新手法を开発し、ナノスケールの非共面スピン构造を持つ物质の电子状态を予测できるようにしました。
- 电子の振る舞いを解析することで、非共面スピン磁性体の物性を数値的に予测できるようになり、革新的スピントロニクス材料の探索や开発への応用が期待されます。
【概要】
近年、非共面スピン構造を持つ物質はスピントロニクス研究で重要な位置を占め、有望な次世代材料として大きな期待を集めています。これまで、この分野では実験研究が急速に進む一方で、理論的な解析はまだ簡略化されたモデルに頼っており、物質の個性を反映した実験で得られた経験的なパラメータを使わずに近似的に解く非経験的予測手法の開発が求められていました。しかし一般に非共面スピン構造はサイズが大きく数値シミュレーションに膨大な計算資源が必要であるため、解析が非常に難しくなっていました。
东北大学金属材料研究所の陈晓邑助教(理化学研究所创発物性科学研究センター客员研究员)、东京都立大学大学院理学研究科の野本拓也准教授(理化学研究所创発物性科学研究センター客员研究员)、东京大学大学院工学系研究科のマックス?ヒルシュベルガー准教授(理化学研究所创発物性科学研究センターユニットリーダー)と东京大学大学院理学系研究科の有田亮太郎教授(理化学研究所创発物性科学研究センターチームリーダー)は密度汎関数理论(注4)に基づき、大規模スピン構造を持つ物質の電子状態を計算できる新たな第一原理计算手法を開発し、非共面スピンを持つ磁性材料の物性について高精度な数値予測を可能にしました。また計算結果を解析し、微視的な電子波動関数と巨視的な物理現象との関係も明らかにしました。
本研究成果は、2025年3月11日(米国東部時間)に米国物理学会(APS)が発行する学術誌 Physical Review Xに掲載されました。
【详细な説明】
研究の背景
非共面スピン构造は、すべてのスピンが互いに平行または反平行に整列している共线磁性体とは异なる物理的特性を持ち、従来の装置より高速な応答性と低エネルギー消费を実现できるため、新たな量子デバイスへの応用が期待されています。例えば、非共面スピン构造の一种である一次元螺旋スピン构造を持つ磁性体は电流によって駆动可能であり、メモリデバイスに応用することが提案されています。スキルミオン(注5)に代表される二次元非共面スピン构造を持つ磁性体も実空间トポロジーの特性により外部摂动に対して安定であるため、次世代の记忆デバイスにおける情报记録の有力な候补として注目されています。
過去10年間で、非共面スピン構造の生成と制御技術は大きく進展しました。初期の手法であるX線散乱や中性子散乱では磁気構造を測定できますが、最新のローレンツTEMという顕微鏡技術を用いることで、スピンの向きを空間?時間の両領域で詳細に観測できるようになりました。しかし、実験技術の急速な発展に対し、理論研究はまだ簡略化されたモデルや現象論的記述に頼っています。これらの手法は実験から得られた経験的パラメータに基づいており、物性値の非経験的な定量予測に適用できません。 そのため、物質の特性を正確に予測できる材料シミュレーション手法の開発が、スピントロニクスの進歩を加速する鍵となります。
今回の取り组み
従来、密度汎関数理論に基づく第一原理计算は、経験的パラメータを使わず高精度に電子の振る舞いを予測できるため、物性計算の主要な手法として広く利用されています。しかし、非共面スピン構造は一般的な材料に比べて単位胞(注6)のサイズが10倍から1000倍も大きいことから、第一原理计算に求められる計算資源が膨大になり、一般に数値シミュレーションが極めて困難、あるいは不可能です。そのため、非共面スピン構造への適用を可能にするには、精度を犠牲にすることなく使用メモリを削減することが重要な課題となります。
本研究では、局所スピンの向きと密度汎関数理論における有効磁場の関係を考慮した新しいモデリング手法を導入することで、超格子計算に伴う計算負荷を回避し、効率的にメモリ使用量を削減しました。さらに、このモデリング手法のパラメータは第一原理计算によって決定されるため、計算精度や材料の特性を損なうことはありません。加えて、より高速な計算を実現するために、ワニエ関数(注7)を用いて电子状态を记述する有効模型を构筑し、电気伝导度などの物性を议论できるようにしました。
本研究で开発した计算手法を、近年注目されているガドリニウム(骋诲)、パラジウム(笔诲)、ケイ素(厂颈)からなる金属间化合物骋诲2PdSi3のスキルミオン结晶构造に适用しました。その结果、非共面スピン构造に特有な现象であるトポロジカルホール効果(注8)を计算し、実験测定と高い精度で一致することを确认しました。さらに、电子波动関数のトポロジーを解析することで、トポロジカルホール効果との直接的な関係と成因を明らかにしました。
今后の展开
本研究で新たに开発した计算手法により、非共面スピン构造を持つ磁性体の物性を微视的な観点から理解できるだけでなく、未知材料の特性も予测可能になりました。この手法は物性研究にとどまらず、スピントロニクスへの応用に向けた有望な材料の探索や开発にも応用され、量子技术の発展を加速することが期待されます。

図1. 本研究の概念図。非共面スピン構造をシミュレーションする新しい手法を開発し、通過する電子との特有な相互作用を正確に予測できるようになりました。 右上の図は非共面スピン構造の一種であるスキルミオン結晶構造。

図2. (a) 本研究対象であるGd2PdSi3 の結晶構造。 (b) フェルミエネルギー(注9)(x軸)における予測されたトポロジカルホール係数(y軸)は、誤差範囲内で実験データ(赤い線)とよく一致していることを示す。(c) 電子波動関数のベリー曲率(注10)の波数空间における分布を解析。正の领域(黄色)が负の领域(青色)より多く存在し、トポロジカルホール効果の起源となることを示している。
【谢辞】
本研究は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業CREST(No. JPMJCR23O4, JPMJCR1874, JPMJCR20T1)、未来社会創造事業(JPMJMI20A1)、 先端国際共同研究推進事業(JPMJAP2317)、創発的研究支援事業(JPMJFT2238)、科学研究費助成事業基盤研究S(JP21H04990)、理化学研究所最先端研究プラットフォーム連携(TRIP)事業の支援により実施されました。
【用语説明】
注1. 非共面スピン構造
磁性体においてスピンが同一平面上にない配置をとるとき、これを非共面构造と呼びます。この构造のもとでは、异なる方向に配向した磁気モーメントが存在することに由来し、トポロジカルホール効果など特徴的な性质があらわれることがあります。
注2. スピントロニクス
电子の「电荷」と「スピン」の自由度を制御?操作することで情报の输送と记録を行う电子技术の分野です。
注3. 第一原理计算
物质の性质を実験データや経験的なパラメータに頼らず、原子の种类と位置の情报から量子力学の基本原理に基づいて直接求める手法です。
注4. 密度汎関数理论
物理量を电子の波动関数ではなく、基底状态の电子密度に関连付ける理论的枠组みです。このアプローチにより、计算资源が大幅に削减され、効率的な材料シミュレーションが可能になります。
注5. スキルミオン
スピンの磁気モーメントが作る涡状の磁気构造体のことで、「磁気涡」や「スピン涡」とも呼ばれます。涡の直径は数ナノメートル(ナノは10亿分の1)から100ナノメートル程度と材料や组成によって异なります。试料を低温にし、外部磁场を制御することによって、スキルミオンは2次元结晶的に配列します。
注6. 単位胞
固体结晶が周期的に繰り返す最小単位の构造です。
注7. ワニエ関数
空间内で局在する电子轨道で结晶内の电子状态を解析する际に重要な役割を果たします。
注8. トポロジカルホール効果
电子が特定のスピン构造を持つ磁性体を通过するときに、进行方向が曲げられる现象です。通常のホール効果とは异なり、磁场ではなくスピンのトポロジーによって引き起こされるのが特徴です。
注9. フェルミエネルギー
材料における基底状态の电子が占めることのできる最大のエネルギー準位です。
注10. ベリー曲率
电子波动関数の几何学的およびトポロジー的な性质を反映し、物质中の电子の振る舞いに影响を与える物理量。特に、ホール効果の起源として重要な役割を果たします。
【论文情报】
タイトル:Topological Hall effect of Skyrmions from First Principles著者: Hsiao-Yi Chen*, Takuya Nomoto, Max Hirschberger, and Ryotaro Arita
*責任著者:东北大学金属材料研究所 助教 陳 曉邑
掲載誌:Physical Review X
顿翱滨:
鲍搁尝:
【问合せ先】
(研究に関すること)
东北大学金属材料研究所
助教 陳曉邑
TEL: 022-215-2005
Email: chen.hsiao.yi.e5@tohoku.ac.jp
(报道に関すること)
东北大学金属材料研究所 情報企画室広報班
TEL: 022-215-2144
Email: press.imr@grp.tohoku.ac.jp
東京都立大学 企画広報課広報係
TEL: 042-677-1806
Email: info@jmj.tmu.ac.jp
東京大学大学院工学系研究科?工学部 広報室
TEL: 03-5841-0235
Email: kouhou@pr.t.u-tokyo.ac.jp
東京大学大学院理学系研究科?理学部 広報室
TEL: 03-5841-0654
Email:?media.s@gs.mail.u-tokyo.ac.jp
理化学研究所 広報室 報道担当
TEL: 050-3495-0247
Email: ex-press@ml.riken.jp